(負けヒロインが多すぎる!アニメ放送を記念して2021年の記事を2024年7月に加筆修正しました。)
私は青い子愛好家である。
青い子とは、ラブコメ等における「定番のフラれ役サブヒロイン」のことだ。髪の色が青いことが多いのでこう呼ばれる。近年では負けヒロインと呼ばれることも多い。
川嶋亜美、美樹さやか、谷川柑菜、イチゴ…みなさんはどんな青い子を思い浮かべるだろうか。
田中将賀による青い子四天王がついに出揃った喜びで心が震える pic.twitter.com/vX2iIoobaE
— サカウヱ🦒🍅×4🍌 (@sakasakaykhm) 2018年1月24日
青い子の多くは主人公の幼馴染でショートカット(もしくは金髪ツインテール)、
そして部活は陸上部などの個人競技の運動部員が多い。
性格は比較的陽キャで、普段は気兼ねなく主人公に接するものの、肝心の恋愛的なところでは奥手。
そして物語終盤、メインヒロインとの恋愛競争に敗れるよう運命づけられた存在である。
特にアニメの担当声優が東山奈央、石原夏織、市ノ瀬加那(敬称略)のいずれがである場合、青い子愛好家の期待は一気に高まる。
特に石原夏織ご本人に至ってはこのようにおっしゃられている。
青い子は物語的には負けるが、我々としては勝ち以外の何者でもない。
自分が勝負しているわけでもないのに勝ち負けとは本当に驕った考え方であるが、青い子愛好家はこのアンビバレントな感情を抑えられない、愚かな存在である。
この青い子愛好家としての矜持は過去の記事で表明してあるので参考されたい。
なおこの記事で言及した助六と称される美樹さやかは2021年に於いても助六のままである。(まどか、杏子、ほむら、巴、渚、助六)
※2024年に再確認。「渚(なぎさ)」や「彩(いろは)」などが追加され、テイクアウトメニューが当時よりかなり充実している。
よく見ると「円(まどか)」にはピンク、「巴(ともえ)」には黄色の装飾がなされている一方、一般名称であるはずの「助六」だけ青く装飾されている。
なぜ「助六」は青なのか?私にはわからない。
この記事の公開当時(2018年)ではなるほど、みんな似たようなことを思っていたのかと思いつつも、当時は負けヒロイン好きなどマイナー嗜好のひとつ程度に捉えていた。
青い子好きは飽くまでメインジャンルの中のサブ嗜好でしかない。
何故なら青い子はメインヒロインによるメインストーリーあってのフラれ役であり、また視聴者がメタ的に認知できる物語上の「負け」に向かって純粋に突き進む、勢いと純粋さが無ければ青い子たり得ないと考えていたからだ。
しかしこの記事から3年が経過し、世間の事情は大きく変わってきた。
2021年7月、『負けヒロインが多すぎる!』というラノベが発刊されたのだ。
負けヒロインがメインヒロイン、という出オチに近い矛盾を抱えた作品が発刊され、しかも初刊から負けヒロインが3人も出てくるというではないか。
小学館の公募での受賞作である本作は、発刊前から宣伝twitterアカウントが作られ、本記事の公開時点(2021年)ですでにフォロワーが1万人を超えている。(2024年7月時点で2.6万人)
当然、表紙を飾るメインヒロインは、青い。
「みんな、そんなに負けヒロインが好きなのか」
本作の情報を見つけたとき、戸惑いと喜びが同時に湧いてきた。
青い子嗜好、負けヒロイン好きはメインヒロインへのアンチテーゼ的側面がある。
「ふふん、俺はメインヒロイン的な理想形のキャラクター好きのやつらとはちょっと視点が違うぜ」といったこじらせた自意識があったり、あるいは「メインヒロインのような眩しいキャラより、親近感のある幼馴染のようなキャラの方が俺には合っている」といった低めの自己肯定感から生まれる嗜好が多少ならずとも含まれているからだ。
それがどうだ、『負けヒロインが多すぎる!』とは一体何事か。
インデックス投資と負けヒロインは多すぎて困るということはない。今後とも負けヒロインという存在の認識が膾炙していくことを望んでやまない。
「俺、負けヒロイン好きなんだよね」「わかるー」という会話が日常的になる世界がもうすぐ来ようとしている。
「ジャンル:負けヒロイン」の誕生をここに祝いたい。
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負けヒロインは近年、その扱いが変わりつつあった。
負けヒロインというワード自体、カジュアルに作品タイトルやキャッチコピーに使われるようになってきた。
2019年のコミティアで以下の2作を見つけたのは偶然ではなかったと思う。
・「負けヒロインは報われない」シリーズ
http:// https://www.melonbooks.co.jp/circle/index.php?circle_id=44184
・負けヒロインに学ぶ恋愛必勝術
#オリジナル コミティア130告知 - 芦垣丁のマンガ - pixiv
特に『負けヒロインに学ぶ~』は後ほど商業誌で読み切り化し、作者も原作付きでさらに別の負けヒロイン作品を発表している。
期待の俊英登場❗️❗️
— ガンガンJOKER編集部【公式】 (@gangan_joker) 2020年6月23日
18回連続で失恋中の”負けヒロイン”な女の子が、武闘派男子に恋をした❗️
異性慣れしていない彼の気を惹くため、彼女がとった作戦は――❓
新感覚ラブゲーム開幕💗
【読切】『負けヒロインに学ぶ恋愛必勝術』
は今月号に掲載中です🌟 pic.twitter.com/pNL2iIw6Rf
他に軽く調べただけでも負けヒロイン作品の増加傾向が見られた。
・ヒロイン転生~逆ハを作ってなにが悪い!(2015年 なろう最古の負けヒロイン作品)
https://ncode.syosetu.com/n0327cy/
・負けヒロインを書く苦悩(2017年 カクヨム最古の負けヒロイン作品)
・勇者様の幼馴染という職業の負けヒロインに転生したので、調合師にジョブチェンジします。(2018年なろう原作、2019年商業化、2020年コミック化)
・負けヒロインの逆襲(2019年)
※ニコニコ静画のため2024年7月時点で閲覧不可。
・姫ヶ崎櫻子は今日も不憫可愛い(2020年)
・負けヒロインの後輩(2021年)
・選ばれたかった少女たち(2021年) おすすめです。
【創作漫画】負けヒロイン2人で傷心旅行に行く話(1/9) pic.twitter.com/gXsTNgUF6m
— 吉良いと (@kilightit) 2021年5月21日
特になろう・カクヨムでは2019年以降、「負けヒロイン」というワードが使用された投稿が増加していた。
Googleトレンドを見ても「負けヒロイン」というワードの注目度は、2020年以降かなり上昇傾向にある。
負けヒロインの認知度は間違いなく高まっているのである。
このグラフの真ん中にある急激な山は2012年6月にあたる。
2012年冬クールに長井龍雪監督の名作『あの夏で待ってる』が放送だったことを考えると、おそらく本作の負けヒロインの金字塔・谷川柑菜が築き上げたトレンドと考えてよさそうだ。
2012年を負けヒロイン元年、マケイン元年としてここに元号制定したい。
今後は令和おじさんならぬマケインおじさんとして生きていこうと思う。
そもそもなぜ負けヒロインが支持を得るようになってきたのか。
そのヒントを、負けヒロインとは切っても切れない要素である「幼馴染」に見出してみたい。
おさまけこと『幼馴染が絶対に負けないラブコメ』がアニメ化されたのは記憶に新しい。
タイトルのとおり、「幼馴染=負ける」という前提の上に本作のタイトルは成り立っている。また本作のヒロインのひとりである幼馴染は、遠慮なく主人公にグイグイ突っ込んでくるタイプだ。
最近の幼馴染は傾向として「なんでも気兼ねなく、恋沙汰でもカラッと話せる相手」として扱われているようである。
タイトルを参考に例をいくつか挙げる。
転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件 (2021年)
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 1. じゃあ、30になっても独身だったらアタシにしときなよ? (2021年。ヒロインが、青い)
ねぇ、もういっそつき合っちゃう?幼馴染の美少女に頼まれて、カモフラ彼氏はじめました (HJ文庫) (2021年。本記事執筆当時、HJ文庫ベストセラー)
かつてTV版エヴァ最終回の「あったかもしれない世界」で、幼馴染となったアスカは寝坊するシンジを部屋まで無理やり起こしに行き、軽口を叩きながら一緒に登校するシーンがあった。
まさに幼馴染とはなんたるかが端的に表現されたシークエンスであるが、そこに現れるのは幼馴染への「日常的・普通な親近感」である。
飽くまで仮説に過ぎないが、幼馴染とニアイコールである負けヒロインにもそうした親近感が見いだされ、負けヒロインがメインヒロイン足り得る魅力として注目されるようになってきたのではないだろうか。
「付き合うならアタシにしときなって!」
人生において幼馴染に言われたい殿堂入りワードのひとつである。
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これから負けヒロインはどのような存在になっていくのだろうか?
遅ればせながら、先日『冴えない彼女の育てかた Fine』を視聴した。
本作の終盤、メインヒロインの加藤恵と、主人公の幼馴染 澤村・スペンサー・英梨々による印象的なやりとりがあった。
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「確かに倫也君は、普通じゃなかったかもしれない。けど、英梨々や霞ヶ丘先輩ほど特別でもなかったんだよ」
「それ才能の話よね? 性格のことじゃないわよね」
「だからね、ふたりに追いつかない同士、ちょうど良かったんだよ。私と、倫也君は」
「…なによそれ」
「倫也君言ったんだ。『私ならなんとかなるんじゃないかと思った』んだってさ」
「普通そう言われたら、怒って別れると思うんだけど」
「確かに私、普通の男の子を好きになるような、普通の女の子じゃないのかもね」
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公式に「ごく普通」と紹介されるように、加藤恵は「普通」のヒロインである。
冴えカノはそんな普通のヒロインが「特別」になっていく様を描いた作品だった。
負けヒロインは凡人である事が多い。いわば「普通」なのだ。
しかし普通の女の子が物語的に負けてしまうとしても、何かに立ち向かう瞬間はいつだって特別である。
その凛々しい姿に、我々青い子愛好家は打ちひしがれ、涙する。
そして時には思いがけない形で、彼女たちは「特別」へとたどり着くときが来るかもしれない。
それがジャンル:負けヒロインに秘められた可能性である。
これからたくさんの「普通な」負けヒロインが、「特別」へと変わっていく姿が見られることを、青い子愛好家は期待してやまないのである。
負けヒロインの可能性は未だ計り知れない。
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美人じゃない 魔法もない
バカな君が好きさ
途中から 変わっても
すべて許してやろう