1k≒innocence

散文だったり、アニメ分析だったり。日常が切り取られていく姿は夏のよう。

「ひげひろ」を全話観てまあまあ悩んだので話を聞いてほしい

ガリベンジやVivyなどオリジナルアニメが隆盛した2021年春クールでしたが、個人的に最も心悩ませた作品は「ひげひろ」こと「ひげを剃る、そして女子高生を拾う。」でした。

 

残念ながらこの記事は本作を多くの方にオススメするためのものではありません。本作を楽しんだ方にはケチつけてるようであまりいい内容ではないですし、別に本作観てない人に対して「こんなんあったよ」と広めたいわけでもありません。
ただ一個人がどこか疑問を持ちながらも全話観てしまった、本作の謎のパワーと自身の気持ちをまとめた内容です。

 

「おじさん、泊めてよ」

北海道から家出してきた女子高生のヒロインと、一介のサラリーマンである主人公が都心の夜道で出会うところから物語は始まります。
寝泊まりの場も碌に用意できないヒロインはいわゆる「神待ち」でなんとか生きており、男に拾われ、身売りしては追い出され、また拾われるという生活を続けている。

傷心の酔った勢いで主人公もまたヒロインを「拾う」が、ヒロインは自分の身を求めない主人公に戸惑いながらも共同生活が始まる…という導入になっています。

 

当然本作はフィクションなのですが、未成年の家出人が初対面の人間の家に転がり込むようなことは実際に現実で起りうるものです。そしてその多くは当然、犯罪として取り締まられています。
もちろん家出人の自由が制限されていなくても逮捕された事案あります。要は社会的にも影響が大きいことを主人公はスタートからやっていっているわけです。

ちなみに本作では主人公をはじめすべての登場人物が、ヒロインを匿ったこと自体は違法行為であることを認識しています。
「見た目では小学生ですがこのゲームの登場人物は全員成人です!」理論で構成された作品ではないので予めお知らせしておきたいと思います。


「未成年の家出人に出くわしたら、どうしたらいいのか」

現実に考えるとすごい重いテーマですね。

 

社会規範に則れば然るべき団体や警察に任せるのが当然です。
あるいはヒロインのような声掛けに出くわしても無視するのも手かもしれません。
見ず知らずの人間に深く関わらない。当たり前の判断です。

一方、家出の主因を解決するには当人だけでは難しいことが多いでしょう。第三者の介入も困難だったりします。
実際本作のヒロインは学校でのとある事件と母親との不和から家出しており、家庭からも地域コミュニティからも見放された存在になっています。

「家出なんてしてないで、ちゃんとお母さんと向き合いなよ」
そう言うのは正しいのですが、家出した当人にとって何の助けにもならないでしょう。

 

簡単には答えの出ないこの命題に、最終話までに示された結果はこうでした。

「主人公とヒロインは半年ほど共に暮す中で信頼を築き、身の回りの人の理解と助けを借りて母親と向き合い、一定の和解を得て平穏な暮らしにヒロインは帰っていった」

 

よかったよかった。ヒロインは助かったようです。

 

一方で新聞沙汰の違法行為を行っていた主人公はどうなったでしょうか。
半年以上も未成年者を匿っていたにもかかわらず、ヒロイン本人はおろか肉親からも訴えられず、それどころか「助けてくれてありがとう」と感謝され、もとの一人暮らしの生活に戻ります。
事情を知る同僚からもなんのお咎めもなく、これまで通り勤労を続けているようです。

 

作品の結末自体はそうなると思っていました。
ただフィクションでも、それでよかったんだろうか?とずーっとモヤモヤしております。

「フィクションだしそこまで本気になって考えなくてもよくない????」という気持ちもあるのですが、しかし「フィクションだから、で済むライン超えてない????」と思ってしまう自分もいるのです。

 

アニメを観た限りですが、物語は大筋として「ヒロインを救うにはどのように登場人物を動かせばいいか」に注力された展開が終始続きます。
ある意味では「ヒロインを救う」結末を迎えるために「割り切った」作品だと思いました。

本作は「カクヨム」で連載投稿されていましたが、割り切った作品を作る作者と、それを了承して読む読者という一種の相互合意が本作の人気を支えていたんじゃないかと思います。

ただこれが商業作品としてリリースされたことを考えると、出版社やアニメの出資企業といった第三者もこの展開を了承したのかと思うとどうもすっきりしないのです。
フィクションとはいえリアリティのある違法行為にゴーサイン出してるわけですから。
あのデスノートですら最後は主人公死んでますし、現代劇をベースにしている以上違法行為を認識しながらイイハナシダナーで終わらるのはなかなかリスキーなように感じました。

 

ただの妄言ですが、ヒロインを無事に実家に返してあげた後に主人公が「大人としての責任を取る」と言い出して自ら出頭、その後不起訴になるが社会的信用がゼロになったところにとヒロインが自ら再会。あっけにとられる主人公に対し、一話に合わせて「泊まってきなよ、おじさん」で完結していたらスタンディングオベーションしていたかもしれません(何の願望?) 

そういう二次創作すでにありそうですね。

いずれにせよ何かしらの禊が主人公にあれば、現代劇として相当説得力が増したんじゃないかと思います。もちろん主軸がそこにあったわけではないとは思うのですが。

 

いろいろ言ってきましたが、それでも全話視聴してしまったのは「ヒロインを絶対に救う」という一貫した意気込みを感じたこと、またキャスティングされた声優陣の演技が良かったことでツッコミどころの多い展開でも押し通すパワーがあったおかげだと思います。

特に市ノ瀬加那さんの儚さを絶妙に含んだ演技を見せるメインヒロインは、2次元キャラとして非常に危うい魅力がありました。


あと気がついたら自滅していたサブヒロインを石原夏織さんが担当されていたことは個人的に僥倖以外の何者でもありませんでした。
3年前から何も変わってませんね。人として軸がぶれていない。

 

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これにて2021年春クールの振り返りを終えたいと思います。

 


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