『雨を告げる漂流団地』で揺らぐ不憫の境界線―高すぎるリアリティの副産物
インターネットから「 サカウヱの好きそうなキャラがいっぱい出る」との通告を受けた『 雨を告げる漂流団地』ですが、 登場から異色を放つ金持ちギャルの令依菜がマァかわいくてですね 。
あとこの金持ちギャルちゃんが可愛すぎて萌ッッッ!!!!!!ってずっと心で叫んでた pic.twitter.com/P5xqSGhvUE
— サカウヱ (@sakasakaykhm) 2022年9月17日
冒頭から「明日からフロリダのディズニー行くの~(ドヤァ)」と飛ばしてくる様子は女児化したスネ夫そのものなんですが、その後のザ・初恋って感じありありの言動とか周りへの当たり方とかは本作で一番人間らしいし、また時折見せるギャグキャラ的振る舞いはキュートとしか言いよう
団地に閉じ込められた結果「(早く帰りたいから) 何でもするからぁ~!」と泣き崩れるあたりはまさに「小学生!! わかる!!何でもするからとか言ってたわ!!」と感動すらさせられました。ともするとそんなに大人びてねーだろってツッコミたくなることが 多い小学生モノの作品の中では、かなりリアルに小学生していたと思います。
それにしてもこういうガキんちょって趣のキャラクター、昔は得意じゃなかったんですが年々かわいげを感じてきている自分に 時の流れを感じざるを得ません。
作画、背景、劇伴(ずとまよ助かりすぎる) と個々の仕事の丁寧さが光る本作ですが、 イマイチノリきれなかったという感想もまあまあ流れてくるんです よ。
それは似たようなことを自分でも感じてまして、 その理由のひとつに現実/ 非現実の境界がかなり曖昧に話が進んでいくところにあると思っています。
その後プール施設や百貨店の廃墟といった、 夏芽の過去に紐づいたものばかりが漂流してくるので、一見すると 夏芽の精神世界に他の登場人物が迷い込んだファンタジーもののよ うに見えます。しかしキャラクターたちはしばらく「これは夢だ/ 夢じゃない」という押し問答を繰り返し、 また食べ物に困窮するシーンもかなり長めに描写されるため、 鑑賞側としては異界(=現実の基本原理が通用しない世界) なのか現実の延長なのか(=餓死しかねないようなリアルな世界)、イマイチ判断しきれないまま話が進みます。
劇場では未就学児前後くらいの子どもたちもいくらか見かけた のですが、彼ら/ 彼女らがどういう感想を持ったのか少し心配です。
そうしたかわいげのあるキャラクターたちがバンバン怪我するんで すよ、この映画。
転んで床に放置してある賞状のガラスを膝で割る( マジでこれが一番痛そうだった)とか、 崩れた団地から落ちて頭打って流血した上にしばらく気絶するとか、 マジでハードな描写が多いです。
特にこの気絶した子を巡ってほかの女子同士で言い争うシーンとか きつすぎて吐きそうでした。
「これは異界の話だから、本当に死んだりしないだろう」 という意識の下で鑑賞できていればそこまでストレスに感じなかっ たと思うのですが、「 舞台設定は異界なのにキャラクターたちは生身なんだ…」 という意識で鑑賞してしまったがために、 彼らの行末が鑑賞に支障が出るくらい本気で心配になってしまいました。
また団地への断ち切れない思い、 航祐とそのおじいちゃんへの後悔の念といった課題を、 自身も家庭環境が穏当とは言えないヒロインの夏芽ひとりに抱えさ せるのもなかなかヘビーな設定でした。
上記のインタビューではこのように述べています。
『ペンギン・ハイウェイ』のインタビューなどでもよく言っていましたが、僕は子どもの頃『 ドラえもん』の劇場版を観ていた影響が大きいと思います。『 ドラえもん』の劇場版の物語って、 言ってしまえば子どもたちが漂流しているようなものだと思うんで す。のび太たちが異世界に行って帰ってくるわけですから。
しかし『ドラえもん』と異なり、『漂流団地』 はまず現実世界のリアリティライン―どれだけ鑑賞者の世界に近い道理の世界か―がかなり高めに設定されています。
御存知の通り『 ドラえもん』ではのび太たちのリアリティラインはそこまで高くありません。しかし『漂流団地』ではスマブラやディズニー、 ブタメンなど実際に存在する固有名詞が冒頭で多数出てくるため、 本作の世界や登場人物が鑑賞者と地続きにある存在のように感じられます。
『ドラえもん』でも『夢幻三剣士』 のようにのび太やしずかちゃんが死亡するようなシーンもあるので すが、魔法で灰になるというファンタジー演出に留められており、 ショッキングではあるものの非現実的であると理解できるラインに なっています。
この記事はたまたま『竜とそばかすの姫』地上波 放送の直後に書かれているのですが、 こちらも実際の地名や緻密な背景描写によって高いリアリティライ ンを保持していることが、終盤の展開への「 いやそうはならんやろ」 という多くのツッコミを呼んでいるように思われます。
作劇の技術向上と共に非常にリアリティの高い映像が提供されていることはとても喜ばしいですが、こうした現実と見間違うような設定が物語の展開自体に縛りを与えかねないものでもあるように思えてきています。
一方で映画ではありませんが、ほぼ現実の東京(江東区あたり) を舞台にするTVアニメ『リコリス・リコイル』 は一部の設定や展開のガバさにツッコミが入るものの、 概ねそれも味のひとつとして受け入れられている 様子です。
ある程度ゆるい現実観の上に成り立つ物語の方が、 実は鑑賞する方にとって素直な楽しみを与えてくれるのかもしれま せん。
そういった意味では、決してリアルさや緻密さが売りでなくとも面白い作品はいくらでも生まれてくる余地があるように思えます。
今日言いたいのはそれくらいです。