120秒であの”距離(distance)”を超える、たったひとつの冴えたやりかた-Z会『クロスロード』によせて-
ついに公開されましたね。
Z会 「クロスロード」 120秒Ver.:
もう一度貼ります。
Z会 「クロスロード」 120秒Ver.:
ああ~もう~…。
新海作品における「距離」の概念が、こんな形で世に出るとは!!という感じです。
それと同時に、この作品に至るまでのさまざまな要素(cultural memeとも言うべきアニメ作品の文脈)が、セカイ系で20代前半をこじらせた人間の古傷をひどく刺激します。
ちなみに僕の高校は速単派でした。10年ぶりにZ会にこういう形でお世話になるとは思ってもみませんでしたね!!
ただいま室温22℃ですが、人生を揺さぶられた結果かなり背中に汗かいてきてます。
かなり殴り書きになりますがもう!!それしか!!できない!!
うおおーっ!!
まず本作のメインクリエイターを総ざらいします。(一部敬称略)
■監督:新海誠
『ほしのこえ』以来、いわゆるセカイ系作品を牽引してきた方ですが、それ以上にとにかく「距離」について真摯に向き合ってきた方です。
パッケージ化されている『ほしのこえ』から『言の葉の庭』まで五作、うち二作のサブタイトルにはdistance/distantという単語が用いられています。
その他にもdeep belowであったり、雲の向こうだったり、星を追ってみたり。
各作品において描かれる「距離」は物理的、時間的、次元的、世代的、社会的立場だったりさまざまです。どれも「キミと僕(ワタシ)の距離」がどう縮まるか/広がるかに注目すると、ぐっと視聴する楽しみが増します。
本作『クロスロード』も例外ではありません。
今回も「距離」について後述します。
ベテランのアニメイターさんですが、同じ作画監督として担当された作品を列記します。
(学園黙示録HIGHSCHOOL OF THE DEADとかも担当されていますが、そこまで話が広げられませんすみません)
すごくベタな言い方ですが、いわゆる「泣けるアニメ」の画面を作られてきた方です。
本作『クロスロード』のキャラクターデザインの向こうに『あの花』を感じるのは容易です。赤フレームのメガネといったらつるこですね。(某京アニの不愉快です!の人の方がもっと似てるとかそういうことは置いておく)
田中さんの作画によって、わかりやすいキャッチーさがアレンジされます。かなり強制的に「あ、これきっと『良い』映像なんだ」という印象づけです。
OVAで4、50分で描かれる新海作品が今回120秒で完結できるのは、田中さんが築いてこられたこの「泣けるアニメミーム」がふんだんに盛りこまれているためではないでしょうか。
じっくり見せた上で悲劇的な展開の多かった新海作品において、CMの大原則である「わかりやすさ」を担っています。
■歌:やなぎなぎ
前述した田中さんの作画監督作品でも『あの夏で待ってる』のED、同じJC Staff制作の『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。(以下俺ガイル)』のOPを担当しています。
偶然だと思いますが、『俺ガイル』と『クロスロード』はロゴカラーがほぼ一緒です。
これにより田中さんの「泣けるアニメミーム」とはまた別のミームがここで引き上げられてきます。
『あの夏』、『俺ガイル』さらに遡れば『化物語』といった高校生が主役である学園アニメの数々。
言い方が難しいですが、「ティーンの代弁者」とでも言いましょうか。
学習塾のCMにおいて、これだけの適役はいません。
■まとめ
これまでの要素をまとめると本作は
新海作品の感動の肝である「距離」を、田中作監による「キャッチーさ」でアレンジし、やなぎなぎが「ティーンを代弁」することによって学習塾のターゲットである受験生狙い撃ち。
というなんかもう完璧すぎる布陣なんですよ。
いやーこりゃやばい。言うたら「なんかすごくいい進研ゼミのマンガ」みたいなもんですよ。こりゃーみんなZ会入っちゃいますね。schoolgirl distortional addictみたいなもんですよ。(伝われ)
しかし、ここまで一貫して受験生(しかも全国)のために作られるとこうですね、高校卒業してン年経ってる人が視聴すると発狂するんですよ。
あの当時の距離は、今の高校生は埋めることができるんだってことに。
その可能性があまりにも遠くに、輝かしく見えます。
これも『距離』ですね。アラサーに入りつつある人間が持てる、埋めがたい『距離』です。
しかしそれは本質ではありません。
本作は「塾がない、時間がない。そんな合格への遠い『距離』を飛び越えさせてくれる通信教育」という、受験生にとってとてもポジティブなメッセージを詰め込んだ、最高の120秒です。
現在進行形、あるいはこれからの受験生の皆さんにご多幸があることを願っております。
ちなみに僕は海帆同様、通う塾もない田舎の高校生でしたが、残念ながら通信教育というものがあるということすら考えませんでした。緑パックは正月にやったような記憶があります。
でも国公立なら私立みたいに学校別対策しなくていいぞ!
私立も私立でセンターいらないけどな!
あと本当どうでもいいんですが、海帆役の佐倉綾音さんが花澤香菜さんの大ファンらしいので、『言の葉の庭』に続いて新海作品出られたことで今頃むせび泣いているのではないかと懸念しています(本当にどうでもいい)
いやでも、本当佐倉さんすごく最近いいですね。夢喰いメリーからずっと気にしてました。
以下スクリーンショットを交えながら、映像とセリフを観点として簡単な解説を置いておきます。
ぶっちゃけここからが本番なのですが、長いしキャプが多いので折りたたんでいます。
でもさっと読めると思いますので、是非どうぞ。
00:07
かもめと定期便。「見えない遠くの何処か」への憧憬。
00:11船便とは縁遠い東京。(立川?)
00:18
カラス。新海作品においてカラスは重要なモチーフです。
整頓された都市を自分のルールで飛び回るカラスは、一種の自由すら感じます。
ちなみにコンクリート柱についている器具はおそらくこの照明です。
http://tokyolamps.jp/shopdetail/020017000001/
00:25
同じ空の色の下、全く知らないふたりが同じ場所を目指す。
約束していないのに、約束した場所。(顔に差し込む光は決意)
「別に幸せになりたいわけじゃないし、確かな約束がほしいわけでもない。
それよりも、もっと。遠くにあるはずの、どこか。
俺/私は、そこに行きたいんだ」
まだ見えぬ「距離」がここに詰まっています。
00:30
坂道、自転車、巨大な商用船。
決して田舎ではありませんが、東京のコピーのような地方都市とは違う時間の流れる場所です。後述しますが、多分九州の何処かです。
00:35
「東京」が東京ではなく、「ただ遠いところ」を指すような土地。
僕も実家がそんな感じです。
狭くるしいながらも賑やかな台所。受験生でもお姉ちゃんなので家の手伝いは必須。
00:37
瓦屋根なので、少なくとも雪の降る土地ではないです。
愛用の自転車では迎えない場所が、船の向かう先。
それでもカモメは自由に飛んでいける。
00:40
渋谷上空。田舎との画面との対比。
00:43
「受験生は普通に塾に通う」「受験生は勉強するもの」が普通の街。
それでも理由があって、バイトする翔太。
00:47
深夜1時過ぎ。海帆の家と違い、自分の部屋も賑やかさもない。
00:49
そんな翔太をサポートする、Z会の通信教育。
00:50
コスモスと蝉。夏と秋の中間。ポストはいつか向かうあの場所への唯一のつながり。
00:52
シティボーイでも塾通いのできない翔太にとっても、ポストはあの場所へのつながり。
学ランは冬服になる。
00:56
なんで富士山?と思ったのですがZ会の本社が静岡県だから。地図を見る限りでは本社ビルと富士山の位置は合ってる様子。
雪をかぶり、いよいよ受験本番。
00:59
バイトではなく、ちゃんとベテラン社員が添削してくれる体制はいいですね。
01:05
人の見える添削で力をつけるふたり。視聴者への邂逅の予感。
海帆の壁には都会の路線図。見えてる部分は千葉県?
都会への憧憬をここにも感じます。
01:07
港と、灯台。巨大なクレーン。瞬く灯台は存在の証明。
灯台が見える町から東大を目指しましょう!!
01:08
渋谷川の雪。南のどこかと同じように、雪が降る時もある。
01:10
爪のピンク色がかわいいですね!!
01:14
曲とユニゾンする演技。こういうモブの使い方は新海作品では珍しい。
01:24
合格発表と桜。
東大の合格発表は、今年だと前期で3/10。桜前線を考えると早咲きになった鹿児島・長崎・熊本の離島あたり?
海帆ちゃんは港育ちの九州っ子やけん。ばってん、おかんも応援してくれてるんよ。(よくわからない)
01:26
まだ桜の気配はない東京。見送る人気もない翔太の家の様子とは。
01:33
御茶ノ水のおのぼりさんと、地元っ子の邂逅まであと数分。
01:34
光さす東大。そう、灯台と東大は同じものなのです。(錯乱)
01:43
ここの脚の演技最高です。
01:46
実際に合格したかどうかは描写されません。
しかしこの1カットにその不安を持つ必要はないでしょう。
01:50
冒頭で中途半端に途切れるロゴが、やっと交差しました。
完。
ところで新海さんのサイトを見ると、本作のキャッチフレーズが「きみはこの世界の、はんぶん」となっています。
セカイorヒロインではなく、セカイ⊇キミ+ワタシという考え方も面白いですね。
そういえば「君の半分になりたい」という曲があったような(適宜検索してください)
はー、楽しかった。
以前に書いた矢澤にこ貧乏説からほぼ一年ぶりに、衝動で記事が書けました。
とても気持ちのいい頭脳行使でした。