↑弱 肉 強 食 鮭 肉 サ ー モ ン
『ユリ熊嵐』が最終回を迎えました。
幾原作品としては『少女革命ウテナ』、『輪るピングドラム』に続くオリジナルアニメで、1クールの作品としては類を見ない濃密さと整然性を保ちながら素晴らしい幕引きを迎えました。
「タイトルにユリとかマジかよ…」
「なんか画面が少女漫画チックすぎてちょっと…」
「この人の作品、用語とか設定が難しいからよくわからない…」
幾原作品の第一印象は「奇抜」と評される場合か多いと思われますが、いずれの作品に於いても描かれる人物描写やメッセージはどれも普遍かつ明確であり、奇抜なビジュアルや設定は飽くまでそれを引き立たせるための舞台装置でしかありません。
かくいう僕もピングドラムを初視聴した時「なんか面白いけどウーン?」というもやっとした感想しか得られなかったのですが、ユリ熊嵐の放送に合わせて並行して観直したところ「こんな綺麗な作品があるものか…」と最終話視聴後に呆然とならざるを得ませんでした。
断絶/箱/スキ/キス/透明/苹果/熊/運命/回想/炎/罪/手紙/判決/生/死/性/2+1 って気持ちです
— サカウヱ(不憫女子愛好家) (@sakasakaykhm) 2015, 2月 26
↑ピングドラム視聴直後の感情(何も伝わらない)
今ならピンドラもバンダイチャンネルで見放題だ!!
http://www.b-ch.com/ttl/index.php?ttl_c=3033
1クールという短さもあり、ユリ熊嵐はこれまでのイクニ作品を理解するために最適な入門作としておすすめできます。
「今までイクニ作品にちょっと興味あったけどピングドラムも2クールだしウテナは4クールだし長くて…」と二の足を踏んでいた方、是非ともユリ熊嵐を見ましょう。
そしてまたこの記事を見に来てください。
きっと「そうだ、そうだよね」と笑顔になれると思います。
ここから下にネタバレを多分に含みながら本題に入ります。
■警告―あなたはクマですか?人ですか?
↑こんないい子が…がうがう…
既存のイクニ作品でも多数見られますが、ユリ熊嵐に於いてもさまざまな相対性を孕んだ要素が散りばめられています。
クマ―人
透明な嵐に馴染む人―透明な嵐に馴染めない人(=悪)
大嫌い―大好き
スキ―キス
壁―扉
欲望―自律 などなど…
「クマが襲ってきたぞ-!!壁を作って人の世界を守れ-!!」と躍起になってたはずなのに、結局壁の中で透明だの透明じゃないだのと同士討ちをしている。
そしてそれは人の世界だけではなくクマの世界もそうだった…。
「あいつきらーい!!排除―!!」と拒絶した相手も、結局同じ構造の中で生きているのは非常に強烈なシニカルメタファです。
君―ワタシに、そうそう大きな差などないのです。
そして最終話で紅羽という人は、自らクマになった。
それまで「クマが人に化けることはあっても、人がクマになることはない。純然たる人だけを選別し透明な嵐となれ!!」と信じて疑わなかった人たちは恐怖します。
これは紅羽クマそのものに対しての恐怖ではありません。
「もしかして自分もいつかクマになってしまうのではないか、あるいは既にクマなのではないか??」という、絶対に誰にも拭えない恐怖です。
透明な嵐の人々は、明日には私はクマになっているのではないか…という恐怖と共に永遠に生きていかなければならなくなりました。
「迷うな!考えるな!撃て!!」
思考停止が唯一の希望。
紅羽を撃つことは、将来の自分たちを撃つにも同義でした。
現実でも一緒です。
「犯罪者は重罰だ」と語る人も、ふとしたきっかけでその罰を受ける側に回る日を否定はできない。
完全な「正」などありえない。
透明な嵐という、巻き込まれた人々に安定(らしき)ものを与える空間は、外からでも中からでも、いつでも崩れる危険がある。
そんな警告が最終話で提示されました。
…ここまで読んで「そうだそうだ!!私のようなハジキものを生み出したあいつらめ!!お前らこそ透明な嵐だ!!」と、具体的にでもぼんやりとでも思ってしまった人。そうしたあなたこそが透明な嵐にもう巻き込まれているかもしれない。
だって透明な嵐は、巻き込まれてしまえばその大半が巻き込まれていることにすら気づかないのだから。
警告は常に外部だけに示されるものではない。
銃口は常に自分たちにも向けられているんです。
狩るものは狩られることもある。
そういうところは幾原監督の厳しさかなと思います。
しかし、厳しい人はそれだけ優しくもあります。
■救済―嵐の抜け方も、その後の生き方もあるんだよ
最終話で一番ひっかかったのは銀子のセリフ。
「食べる前に透明になったら美味しくないからだ、がう…」
これも相対性を以てすれば
「透明じゃないあなたは美味しい」
と、僕は読みます。
こんなこと言われたいし、言えたらそれはそれで誰かを救えると思いませんか。
透明でないあなたにこそ価値を見出してくれる人(クマ)もいるのではないか、そういう救いを感じずにいられないわけです。
そしてそれは既に透明な嵐にいてもできることです。
亜依撃子は透明な嵐を静かに抜け出し、メカこのみを「見つけ」出しました。
あなたはメカこのみかもしれないし、誰かにとっての亜依撃子にもなれるかもしれない。
スキを宣言するのは怖い?それも大丈夫。
「約束のキス。僕からすればよかったんだ。ね?」
こんなにささやかに、しかし強烈に生を肯定するメッセージ。
そういう生き方を誰かとできたらステキですね。
「気を抜くな、しかしきっとあなたは見つけるし、見つけられるだろう」
そういう優しさを、前述の警告と同時に感じすにはいられないのです。
■これから
結局、ユリ熊嵐の世界は大して変わりませんでした。
銀子も紅羽も排除され、透明な嵐は相変わらずの安定を得た。
でも純花のスキが紅羽を動かしたように、今度は紅羽のスキが亜依撃子を動かした。
スキは人を動かす。愛の弾丸、LOVEずっきゅん。
“ふた ふた ふた 二人が急接近したあの日から
貝殻集めて歩くのやめました
ラブ ラブ ラブずっきゅん
ラブ ラブ ラブずっきゅんだね
ラブ ラブ ラブずっきゅん
君にほら ラブずっきゅん”
LOVEずっきゅん 【PV】 相対性理論 - YouTube
これぞセクシー、シャバダドゥ!!
(おしまい)