【告知】負けヒロイン合同誌「Blue Lose」寄稿とサンプル公開
早稲田大学負けヒロイン研究会@LoseHeroine_WSD初の会誌となる「Blue Lose」へ寄稿・主催との対談を掲載いただくことになりました。
下記の通り、5/29の文学フリマにて頒布予定です。
【告知】
— 早稲田大学負けヒロイン研究会 (@LoseHeroine_WSD) 2022年5月17日
早稲田大学負けヒロイン研究会会誌、「Blue Lose」第1号の発刊をお知らせいたします。記念すべき創刊号たる本誌では、「負けヒロインとは何か」という話題を中心に据えています。
また本誌は5/29(日)開催、第34回文学フリマ東京[ツ-16]での販売を予定しております。
(以下、内容の紹介です) pic.twitter.com/D4tPunnXQT
1.冒頭座談会 サカウヱ×つむじ~負けヒロインについて~
— 早稲田大学負けヒロイン研究会 (@LoseHeroine_WSD) 2022年5月17日
負け研主催者つむじと、負けヒロイン界の長老サカウヱ氏による座談会です。「負けヒロイン」についてのいくつかのトピックを話題に上げながら、負けヒロインの過去、現在、未来について語り合いました。
2.私論:負けヒロイン、その起源について
— 早稲田大学負けヒロイン研究会 (@LoseHeroine_WSD) 2022年5月17日
サカウヱ氏による「負けヒロイン」という名称にまつわる論考です。果たして我々は「負けヒロイン」という言葉をいつから用いているのか。ネット上に存在する痕跡たちを深く掘り下げつつ、その起源に迫ります。
かつて負けヒロインは散発的にインターネットで観測される程度の嗜好でしかありませんでした。しかしここ10-15年で確実にひとつのコンテンツジャンルとして成長し、またその嗜好を自認する人間が増えてきています。
その結果のひとつとして昨年から発足した本研究会があります。
主催の舞風つむじ氏@maikaze_tumuzi のおかげで、これまで言語化してこなかった負けヒロインとは何か?という根源的な問いについて改めて振り返る機会をいただきました。
大学の研究会誌ですので、主体である学生の皆さんがアクセスしづらい、また体験していなかったであろうゼロ年-テン年代前後の私見を提示しています。
今後の負けヒロイン研究の参考資料となれば幸いです。
またこれに合わせて、本誌に寄稿した原稿の冒頭を公開いたします。
本稿以外にも素晴らしいアイデアが詰まった寄稿が届いていますので、おそらく世界初の負けヒロイン概論を御覧ください。
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私論:負けヒロイン、その起源について
D'où venons-nous ? Que sommes-nous ? Où allons-nous ?
-Eugène Henri Paul Gauguin
『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』
-ウジェーヌ・アンリ・ポール・ゴーギャン
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Chapter 1:我々はどこから来たのか
「お前が好きになるキャラ、だいたい不憫になるよな」
負けヒロインというワードが一般化する前、気がつくと私は「不憫女子愛好家」を名乗っていた。今見ても最悪な字面だが、当時はそう名乗るしかなかった。
2008年放送『とらドラ!』の川嶋亜美、2011年『魔法少女まどか☆マギカ』の美樹さやか、そして2012年の『あの夏で待ってる』の谷川柑菜…2010年前後のコンテンツによって形成された「不憫好き」は、インターネットの片隅で奇異な目で見られる異端嗜好だった。
そのうちキャラデザや担当声優で不憫キャラを目利きできるようになったが、自分の気に入ったキャラを表明するとインターネットからは「私の推しを不幸にしないで」という言葉をいただくようになってしまった。とんだ誤解である。
あれからおよそ10年、2021年8月に「早稲田負けヒロイン研究会」発足のツイートが流れてきた。
こんばんは!早稲田大学負けヒロイン研究会です!当研究会ではいわゆる「負けヒロイン」に想いを馳せる研究会になります。大学、年齢等の制限はありません。興味のある方は是非ご連絡下さい!
— 早稲田大学負けヒロイン研究会 (@LoseHeroine_WSD) 2021年8月15日
Fig.1 負けヒロイン研究会のツイート
ついに時代が動き出した。テン年代から負けヒロインを孤独に愛好してきた身として、長い冬が開けたような気持ちだった。
ついに負けヒロインも一般性癖と呼んで差し支えない時代がもうそこまで来ているのだ。
それにしても負けヒロインとはなんなのか。
「幼馴染は負ける」
「青髪キャラは負ける」
「金髪ツインテも危険」
こうしたインターネットミーム的な概念はどのように萌芽し、今日の隆盛に至ったのか。
本稿では負けヒロインというワードが膾炙するまでのきっかけの一端を、個人的な主観を多分に交えながら探っていきたい。
まずはGoogleトレンドで「負けヒロイン」の動向を探ってみる。
既に経済系Vtuberの夜須田舞流さんが類似した調査を先行しているので参考されたい。
驚いたのは自分自身でブログに2014年時点で「負けヒロイン」というワードを使用していたことだ。ここで引用されるまで完全に失念していた。
本稿でも改めて「負けヒロイン」をトレンド検索してみる。
すると本記事執筆時(2021年12月前後)では以下のようになった。
2012年の急で大きな山と、2020年の中程度の山が見られ、その後は上下しつつもある程度常に検索されている模様だ。
2012年の負けヒロインといえば前述した『あの夏で待ってる』の谷川柑菜である。
「谷川柑菜」について比較してみると、グラフはほぼ同じタイミングで2012年に山を迎えている。
もちろんこの比較だけで谷川柑菜のトレンド上昇が負けヒロインのトレンドを押し上げたと結論づける気はない(逆も然り)。
しかし谷川柑菜のpixiv百科事典とニコニコ大百科がいずれも2012年3月に作成されており、『あの夏で待ってる』、ひいては「谷川柑菜」の注目度が確実に上昇したタイミングであることは確かだ。
谷川柑菜の負けヒロインぶりについては「あの夏で余ってる」といったネットミームが生まれたり、まとめサイトでネタになっていたことからも十分に確認が取れる。
以上のことから負けヒロインと谷川柑菜には一定の関係があると推定したい。
2020年3月の山は『勇者様の幼馴染という職業の負けヒロインに転生したので、調合師にジョブチェンジします。』のコミカライズによるものと推測する。なお本作の原作は2018年からweb公開されている。
負けヒロインと本作のトレンド比較は以下の通りである。見やすくなるようにグラフの範囲を2016年からに変更している。
谷川柑菜と同様、作品と負けヒロインのトレンド上昇が比例しているのがわかる。
2021年にも山が見られ、これは同年7月に発売されたライトノベル『負けヒロインが多すぎる!』の影響と推測するが、まだ蓄積が少ないのかGoogleトレンドではうまくデータが取得できなかった。
ここではあくまで個人的な推測にとどめておく。
以上のように、負けヒロインというワードの認知度は特定の作品群によって広まった可能性が高い。特に本稿では『あの夏で待ってる』と『勇者様の幼馴染という職業の負けヒロインに転生したので、調合師にジョブチェンジします。』が負けヒロインの認知度向上に一定の貢献があったと結論づけたい。
もちろんここで見つけられなかった事象が負けヒロインのトレンドに寄与した可能性は十分にあるが、現時点では2012年を負けヒロイン元年と位置づけ、本稿での話を進めたい。
・インターネットを発掘する
前述のとおり、「負けヒロイン」は2012年に勃興したと見て差し支えなさそうだ。
しかし『あの夏』の影響が見込まれるとはいえ、「負けヒロイン」が含意する概念そのものが突然現れたとは考えにくい。2012年までに「負けヒロイン的な概念」が少しずつ集積し、2012年前後に「負けヒロイン」というワードに結実したと考えるのが自然だろう。
そこで2012年以前のインターネットにフォーカスして検索を続けることにする。
完全一致で"負けヒロイン"を期間指定(Googleトレンドの検索可能な範囲に合わせて2004/01/01/~2012/01/01)で検索し、負けヒロインに言及しているページを確認していった。
この際、アフィリエイトページに掲載されている最近の負けヒロイン作品がひっかかってしまうため、適宜作品で除外検索をかけながら調べていった。
最も古いページではBLEACHの井上織姫アンチスレ(2007年)で「負けヒロイン」のワードが見つけられた。しかしこれは「設定負けしているヒロイン」の略称であったため、今回の調査からは除外した。
【ダメだ】BLEACH井上織姫アンチスレ36【やっぱり気持ち悪過ぎるや】
これを踏まえた上でさらに調査した結果、興味深いページがいくつか見つかった。
新しい順に掲載する。
・【俺妹】高坂桐乃 茶82と黒髪どっちがいい?(2011年10月)
人気ラブコメ作品『俺の妹がこんなにかわいいわけがない』のヒロインのひとり、高坂桐乃についての単独スレッド。
本スレッドの325で桐乃アンチが「負けヒロイン」というワードを使用している。文中の「最萌」とは当時ノンジャンルで行われていたキャラクターの人気投票企画「最萌トーナメント」のことと思われる。
『俺妹』はメインヒロインに主人公の実の妹を据えるというセンセーショナルな設定を置きつつも、他にも魅力的なヒロインを多数登場させた。一方でキャラ派閥による闘争が絶えなかった作品でもある。特に物語前半は黒猫こと五更瑠璃と呼ばれるキャラが人気を博し、高坂桐乃は殺伐としたキャラ闘争の果てに負けヒロインと呼ばれるに至ったようだ。
・戦場のヴァルキュリア3 人気投票 結果発表(2011年2月)
個人サイト「春が大好きっ」内で行われた、ゲーム『戦場のヴァルキュリア』のシリーズ3作目のキャラクター投票ページ。個人サーバーでこうした応援サイトを持っていることは当時は主流だった。
ダブルヒロイン形式だった本作で「もう一人のヒロイン」と形容されるイムカについてのコメントに「負けヒロイン」が登場した。他のコメントにも「負け」というワードが散見される。
応援コメントのゼロ年代感が心にしみる。
そして以下のページが、今回調べられた限りでの最古「負けヒロイン」である。
・伝統攻撃 (2009年10月)
RmG氏が管理する個人ブログ。
本ページで、PCゲーム『トロピカルKISS』に登場する氷室立花(正しくは氷室立夏)というキャラクターの紹介で「負けヒロイン」というワードが使われている。
本件を深耕する前に、少し2009年前後のインターネットを振り返ってみる。
国内SNSとして初めて広く認知されたmixiの存在感が落ち着きはじめ、twitterが少しずつ認知度を広めていった時期である。またスマートフォンへの移行期でもあるが、富士通や東芝の国産スマホが悉く失敗し、ソフトバンクの独占販売だったiPhoneが急激にシェアを伸ばした時期だ。
つまり現代と比べて、まだパソコンの前でインターネットをするのが主流であった時代にあたる。個人サイトやブログに誰かがアップロードしたページを、誰かが非同期的に閲覧するのがこの頃のインターネットだった。手元でリアルタイムにコミュニケートできる現代からすれば、だいぶスローなインターネットである。
ユーザー各々がブログを持ち、リアクションは少なくともゲームレビューやアニメ感想を公開するのは個人商店の集まりのようであった。個人商店では何を売ろうが自由である。この自由さがなければ今回の記事も見つけられなかっただろう。
さらにRmG氏にこのページで紹介されている「氷室立花」は本当に負けヒロインだったのか、不躾ながらご本人に質問することができたので以下に掲載する。
RmG氏には大変ご丁寧に対応いただき、12年前のゲームを再プレイして確認されようとしたが、残念ながら現物が見当たらず叶わなかったとのこと。
よってご本人からも以下の回答は記憶を頼りにした曖昧なものであり、一個人の印象に頼った内容であることを申し添えられている。その点を留意した上でご覧いただきたい。
以下がこちらからの質問内容になる。
・氷室立夏は「明らかに勝負が決まった後もアプローチを続ける負けヒロイン」とのことですが、これは他のヒロインとの恋愛勝負に負けてしまうエピソードがあるという意味ですか?(主観で結構です)
・氷室立夏は青髪ショートヘア、スレンダー体型と現代の負けヒロインにも通じる特徴があるキャラクターです。
あまり当時のPCゲームに明るくないのですが、本ゲームが発売された当時、他のゲームでも同様のキャラクターは存在していましたでしょうか?
・もし印象に残っている負けヒロイン(的なキャラ)がいましたらご紹介ください。
以下がRmG氏の回答になる。
***
トロピカルKISSは過去にフラグを立てた結果ヒロインの好感度は最初から全員MAXです
攻略ルート確定後も諦めず他のヒロインがアプローチをするタイプの話になっています
その中で立夏は肉体関係もあり、物語開始直後はお隣さんと一番近い関係だったということで
他のヒロインと比べて高いアドバンテージを持っていたヒロインになっていました
それはメインヒロインでもある幼馴染である花火に対してもで、見方によっては花火以上に
優遇されているように見えるヒロインとなっている、と当時は感じていたと思います
それ故に、ルートから外れたときの反動は強く、特にライバルの花火ルートでは際立ち
本人の表面的なクールさと、情の深さからくる行動の重さの空回りのギャップもあって
当時は、負けヒロインとしての描写が際立っていると感じたのではないかと思います
(尤も、コメディ色が強い作品なので引きずる話ではないと注釈を入れておきます)
曖昧な記憶で、憶測も交えた話となりますが現状でお話できるはこのレベルになります
もしかしたらかなり見当違いなことも言っているかもしれません
他の作品といえば具体的な名前は出ませんが、クールな性格故に損な役回りになるヒロインが
ある種の定番だなと色々なゲームをする上で勝手に思い込んでいたのかもしれません
***
RmG氏の回答から推測するに、氷室立夏は別のヒロインの攻略ルートで負けヒロイン的な立ち回りを担っていた様子である。
突然の声掛けにも関わらず、ご丁寧に対応いただいたRmG氏にはここで改めて感謝申し上げます。
以上の結果から、少なくとも本稿ではインターネット上で特定のキャラクターが「負けヒロイン」と形容されたのは2009年10月、RmG氏の個人サイト「伝統攻撃」での「氷室立夏」というキャラクターから、と結論づけたい。
もしこれ以前のインターネット上での負けヒロインへの言及、また書籍や雑誌などで見かけたという情報があれば是非お知らせください。
ではこれ以前には負けヒロインは存在しなかったのか?
次章ではさらに私的な考察を進めることとする。
***
続きはぜひ本誌でお楽しみください。
始まりは青い色
米津玄師 / 灰色と青( +菅田将暉 )