1k≒innocence

散文だったり、アニメ分析だったり。日常が切り取られていく姿は夏のよう。

俺たちはずっとヤマカンに踊らされてきたし、これからも踊らされたいんだ

俺たちはいつだってヤマカンに踊らされてきた。ギョーカイがどうとか、フラクタルがどうとか、801ちゃんがどうとか。

 

けれどそんな事より、そもそも俺たちはハルヒらき☆すたで十分踊らされてきた。

ハレ晴レユカイも、もってけ!セーラーふくも、あのダンスシーンはヤマカンの仕事だ。

ヤマカンはいつだってオタクたちの身も心も踊らせてきたんだ。

f:id:sakasakaykhm:20171023223617p:plain

ニコニコ動画で「踊ってみた」タグを古い順に遡ると、2ページ目からハレ晴レユカイの大規模踊ってみたオフの動画が相当数出てくる。参加した、撮った、そこまではしなくとも振りは覚えた、当時のオタクにとっていろいろある曲だと思う。

 

時流や作品の人気の後押しした結果だと思うが、どうして踊ってみたの隆盛は「ハルヒ」だったのか。キングゲイナーじゃなかったのか。コナンのパラパラじゃダメなのか。

それもこれもヤマカンの傑出した演出が寄与している。特にカメラワークの点で。

 

踊ってみた大規模オフに参加したティーンや大学生も既にいいアラサーなっていると思うが、本作の「サビで正面から固定したカメラで踊るハルヒたち」の画面は記憶に残っていることと思う。

f:id:sakasakaykhm:20171023223708p:plain

これはまさに作中の高校生、砕いて言うならアマチュアが撮影した画面作りだ。

 

ラブライブ!アイドルマスターも、サビではとにかく大仰な程にカメラを回す。普通アニメの演出としてそうするだろう。時代的に技術力の違いはあれど、当時の京アニでできないことではなかったと思う。

けれどヤマカンはそうしなかった。朝比奈ミクルの冒険がそうであるように(これなんてヤマカンの映像制作の真髄だと思う)、ハレ晴レユカイはハルヒたちが自分たちで企画して自分たちで撮影したのだ

だからカメラ視点は固定されている。

 

その結果としてアマチュアの人間が「踊ってみた」動画を撮ると、それだけで自然とハルヒと同じ画面になる。

少し広い部屋にカメラをひとつ置き、その前で5人が横並びになって踊るだけでハルヒなるということ。

つまりハレ晴レユカイの踊ってみた動画撮影は、その撮影自体がハルヒたちの撮影行為の追体験であったと言える。

 

らき☆すた含め他のヤマカン作品でもこうした凝ったカメラワークは枚挙に暇がないが、やはり本人がアマチュア時代に特撮映像を製作していたことが多分に活かされている結果だろう。

 

マチュア時代の作品「怨念戦隊ルサンチマン」は、演技やら設定やらの手弁当具合に比べてカメラワークが丁寧だ。特に下の戦闘シーン。

f:id:sakasakaykhm:20171023224623p:plain

f:id:sakasakaykhm:20171023224640p:plain

f:id:sakasakaykhm:20171023224657p:plain

 

画面奥から戦いながら出てくる青のヒーローを遮るように、黄色のヒーローが左から飛び出してくる。視聴者は奥のヒーローに注目しているから、印象として臨場感が大きくなる。

他のカットでも何を映したいのか明確な意思が見て取れるから、出演者がプロのスタントじゃないのに何故か飽きない。アマチュア時代の時点でヤマカンは相当自分の仕事を勉強したととれる。

 

こうした画面作りは前述したハルヒなどで活かされ、結果としてアニメでキャラクターが本格的に踊る(≒人がコピーできる振り付け)ことをブームにのしあげた。

 

そして「キャラクターを踊らせること」の才覚によって、ヤマカンがアイドルアニメの製作へと進展することは自明だったのではないか。

f:id:sakasakaykhm:20171023224834p:plain

Wake Up,Girls!を話題に挙げる上でキーとなるポイントは「キャラクターと中の人のリンク」、そして「作中の仙台と現実の仙台のリンク」だ。

 

WUGはアニメ、パフォーマンス、そして仙台の相互関係によって成り立っている。

そしてこの3つを繋ぐのもまたヤマカンのカメラワークだ。

f:id:sakasakaykhm:20171023231929p:plain

f:id:sakasakaykhm:20171023225645p:plain

勾当台公園光のページェント、どっちも仙台市民はおろか東北在住の人間なら他県でもある程度認知されている場所だ。

特に光のページェントも、仙台市復興のシンボルのひとつだ。

キャラクターを敢えて置かず、第1話の冒頭にこのシーンが入る理由は察するにあまりある。

f:id:sakasakaykhm:20171023224945p:plain

ここも何気ないカットだが、本当だったらもっとキャラクターに寄せたカットでもよい。わざわざアニメにしては遠景にすることで、年末年始の寒々しい仙台の様子を背景を含め、画面全体で印象づけている。

 

f:id:sakasakaykhm:20171023232228p:plain

f:id:sakasakaykhm:20171023230134p:plain

f:id:sakasakaykhm:20171023232325p:plain

そして今はなくなってしまったが、長年仙台駅前を盛り上げてきた大型ビジョンでI-1 Clubの広告を流し、それに注目する市民を描写し、キャラクターに画面を戻す。

このようにヤマカンのWUGは「ちゃんと彼女たちが仙台にいる」ことを実感させるつくりになっている。そしてそれは現実的なカメラの置き方、画面の切り取り方に裏付けされたものに他ならない。

 

他方、あまり細かい点を挙げて不満を述べても生産的ではないのだが、そうしたヤマカンの丁寧な仙台の描写に対比して、新章でどうしても納得できない点があった。

新章1話、行きの新幹線のシークエンス。

まず仙台駅の描写だが、ヤマカンが駅前のペデストリアンデッキ効果的に使用していたのに対し、駅舎の一部を切り取っただけのカットで収めてしまったのは個人的に残念だった。

f:id:sakasakaykhm:20171023225001p:plain

仙台駅、特にペデストリアンデッキ側に出たことのある人ならわかると思うが、仙台駅は新幹線の乗り入れのためにかなり縦長で大きい。仙台が東北の中核を担う都市である象徴として、この仙台駅は大きく見せて欲しかった。

こんな感じに。

f:id:sakasakaykhm:20171023224924j:plain

もちろんこの画面もヤマカンWUGによるものだ。

次に新幹線のホーム。

仙台駅に長時間停車しているようなので仙台駅始発のやまびこと思われるが、東京に直行するのに停車駅の多いやまびこを選択する理由がよくわからない。

自由席狙いで運賃節約なのだろうか。だとしたらここだけ妙に設定が細かい*1

f:id:sakasakaykhm:20171023225039p:plain

 

車中でも首を傾げたくなる描写がある。下でキャプチャしたシーンの背景にコクリート柱が見える。

ここだけ鈍行電車並のスピードで流れていくので、その真相はぜひ君の目で確かめてほしい。

あとみなみ食べ過ぎ。

f:id:sakasakaykhm:20171023225111p:plain

 

そして下のレイアウトも、3×2のボックス席のスペースに1人座って5人立っているというのは流石に無理があるように感じる。

ななみんとかやたん席の上で立ち膝なのでは。

f:id:sakasakaykhm:20171023225204p:plain

 

これらの感想もヤマカンの画面作りによって相対的に違和感を覚えたためであり、おそらく普通に視聴していたらわざわざこんな指摘しなかっただろう。

 

そもそもこうした記事を書こうと思ったのはヤマカン周辺の騒動ばかり取り沙汰されて作品クオリティに言及されることが少ないこと、残念ながらヤマカン製作のWUGと比較して個人的に新章にはクオリティ面でよい印象がなかったからだ。

本記事で少しでもモヤモヤしているWUGファンの心が収まれば幸いだし、新章がダメ、ではなくヤマカンのこんなところがすごい、という視点でWUGを見直してくれる人が増えてほしい。

 

何よりWUGは中の人のパフォーマンスが素晴らしい。僕がWUGに関心を持ったのはMONACAフェスでのパフォーマンスに感動したからに他ならない。

さまざまに才能があるものがバラバラになっていく様子を観測していくだけでは、WUGオタクはみんな流石に去っていくだろう。

前作放映当時、視聴していない人間に限ってあのパンチラアニメだろwwと揶揄していたのを必死に堪えてきてこれまで応援してくたオタクが少なからず存在する。そうした人のことを思うと、現状WUGのおかれている状況にどんな感情を持っているか筆舌に尽くしがたい。

新章はそうしたオタクを魅了してくれる作品になってくれることを心から願っている。

 

そしてどうか旧作1話のこの台詞が、近いうちに新章で活躍するWUGを表すマイルストーンとして、どこかで輝く日が来ることを願ってやまない。

 

でもよかったよね。また活動できるんだもん。

f:id:sakasakaykhm:20171023233450p:plain

 

 

Beyond the Bottom

Beyond the Bottom

  • provided courtesy of iTunes

 

 

 

 

 

*1:そもそも前掲した仙台駅の時計が13時、やまびこだと東京まで2時間かかる。仮に出演した例の番組が六本木の某番組だったとして、16時入りは必至のスケジュールだ。あまりに遅すぎる