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1k≒innocence

散文だったり、アニメ分析だったり。日常が切り取られていく姿は夏のよう。

2年近くかかって新海誠『小説 言の葉の庭』を読んで分かった、今までとこれからのこと

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新海誠の大ヒット作品『言の葉の庭』の小説版をやっと読みきりました。

 

 

2014年の4月に発売されたハードカバー版ですが、読みきるのに2年かかりました。
そもそも僕は圧倒的に本読むのが遅いのですが(200ページくらいの文庫でも平気で1ヶ月かかる)、それでも遅いですよね。

 

好きな(映像)作家の作品にこんなこというのもなんなんですけど、正直言ってあんまりいい文章じゃないんですよ。
文字コンテ読んでるみたいなカクカクとした文体というか、平たく言うとちょっと説明的な部分が多いんです。『秒速5センチメートル』の小説版よりずっとよくなったと思うけど、それでもまだちょっと固い感じがします。

あんまりテンポよく読む、という感じの小説ではないわけです。

 

それでも映像作品で出てくるモノローグのポエムっぽいところはすごい筆のってるなって感じますし、こうした部分は映像として想起するのか非常に容易で、新海誠の文章ってそういうところが面白いとも思うわけです。

 

この小説版『言の葉の庭』では、映像版でサブキャラだった人たちが本作では各章1つずつで中心人物として描かれているので、「この人こんなだったんだ!」と、小説でしか知れない事実もたくさん詰まってるものだから「オタクはこういうのに弱いんだよな…ずるい…好き…」と思いながら読んでました。


映像版だとただのイヤな奴だった先輩女子高生ちゃんが、実はメンヘラ一歩手前くらいのヤバい子だったりして結構いいなと思ってしまいました…。

ただすごく「男が書く女子高生像」になってて、ここが読むのに一番ツラい文体でした。

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さて文章として新海誠作品を摂取すると、映像版で同じ風景に差し掛かってもやはり感じ方が違うんです。
それは平たく言うと「こんな人いるか?」というセルフツッコミです。

いくらかわいいからって男子高校生が赴任してきた先生に告白するか?とか、

そもそも主人公含めこの家族まともな恋愛事情の人間がいねえ、とか、

そんなこと創作に言ったら身も蓋もないんですけど、そういう批評的な感情が小説版を摂取するとよく出てくるわけです。
これも読書速度遅延の一因でもありました。


でもこの手の感情って映像見てる時はそんなに出てこないんですよね。

ユキノ先生の演技は未だに私的ベストオブ花澤香菜ですし、6月のむわっとしたJRの車内の空気が伝わってくるような作画はやはり魅力がすごいわけで、ロマンスがありあまっています。

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秒速5センチメートル』を観た時も同様で、はーなんだこの作品は!圧倒的映像美!と思った一方、後々他の人から「いや雪の日に中学生が一晩いなくなったら大騒ぎになってるし、あと二話で田舎の子がずっといない男ひきずるとかいい話じゃないでしょ…」って言われてあ、なるほどと納得してしまったこともありました。

つまりどういうことかと言いますと、新海誠の映像作品は「視覚的・聴覚的なリアリズム」によって、フィクション性の高い人間関係や物語展開がうまいこと包まれ、結果として作品全体がリアリズムを帯びてるように見える、という構造なのではと感じたわけです。


なのでこの視覚的・聴覚的なリアリズム(=きれいな作画や、現実にある場所)に影響されなかった人は、前述したように冷静に物語にツッコミが入れられるわけです。

 

小説版ではもちろん映像や音声の装飾がなくなるわけでありまして、するとそこに残るのはちょっとツッコミを入れたくなるようなフィクション性の高い物語です。

そうすると「新海誠というのはギャルゲーのOPを作ってた人なんだなあ」と、自ずと思い返さずにはいられません。

「自分の秘密の場所でだけ会える、年上の妙に気になるチョコでビール飲む変な女は実は自分の高校の先生だった!」


うん、すごい純粋なボーイミーツガール感!大好物です。

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結局のところ何が言いたいかと言いますと、新海誠作品においてリアリズムとフィクションを混同して視聴すると身を滅ぼすかも、ということです。
どんなに頑張っても新宿御苑に味覚障害の美人古典教師はいないですし、高校の頃のあなたを待っている女子高生は奄美大島にはいません。

 

惜しむらくはこの視点はそもそも純然たるセカイ系作品であった『雲のむこう、約束の場所』までは、普通に視聴側も認識していたはずのことだったのです。北海道や青森が出てきてもしっかりフィクションでしたから。


それだけに『秒速5センチメートル』で示された、徹底的にロケハンされた現実世界を映したビジュアルを舞台に、その舞台を壊さない程度のギャルゲー文脈的物語を動かす手法が強烈であったわけです。


新作『君の名は。』が今夏公開予定です。
本作について監督本人がこう語っています。

追記。最後に、この個人サイトを見てくださるような、昔からの(ディープな)ファンの方々へ。『君の名は。』には、僕の過去作のモチーフもたっぷりと盛りこまれています。もちろん新しい要素も多くありますが、過去作を熱心に観てくださっていた方ほど、連続性や語り直し、アップデートに気づいていただけるはずです。

子供から大人まで多くの観客に楽しんでいただける映画を目指していますが、この映画を最も楽しむことができるのは、やはり皆さんです。今作でもぜひ、映画館に足を運んでいただけると嬉しいです。

Other voices-遠い声- » 劇場長編アニメーション『君の名は。』

 

『君の名は。』はおそらくこれまで以上に、たくさんの人に鑑賞されることでしょう。

そしてさらになる新作もよりマスの人々の目に留まるはずです。


その節目に立ち返る場所として、この記事が機能する日が来るであろうことを、今から期待してやまないわけです。