1k≒innocence

散文だったり、アニメ分析だったり。日常が切り取られていく姿は夏のよう。

そして約束とともに、輪廻の外れへ―『シャーロット』と麻枝准の「これから」

『シャーロット』が最終話を迎えました。

展開としては前回の記事で期待していたとおりでした。

 

sakasakaykhm.hatenablog.com

 

 

 

 

その後、最終話放送直後から
「キーポイントとか言ってた六話までやたら時間かかったしサラ・シェーンもどうなったかよくわからんしそもそも怪我したところで治癒させてタイムリープすりゃいいし設定も展開もガバガバすぎでしょ…」

というような感想が四方八方から聞こえてしました。僕もだいたい同意です。

同意なんですが…それで終わるには本当にもったいない気がしています。いくらPA贔屓、佐倉綾音贔屓であっても、どうしても「うーん、ちょっと駄作では…」と言い切れない気持ちがずっと残っていました。

それは一体何なのだろう、と既に秋アニメも始まる中ここ1週間考えてきました。


飽くまで個人の考えでありますが、本稿ではキャラクター、特に乙坂/友利の物語を通じて、特筆すべき本作の示唆を読み取ることに注力したいと思います。

 

・能力(=病気)の否定、そしてループからの脱出

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最終話で、乙坂はふたつの大きな転換点を示します。
ひとつは「治癒能力の奪取」
多くがズルや悪行、果ては政治・軍事的に利用される「能力」ですが、乙坂も認めるように、能力者の少女が自分の村のために「善行」として能力を行使しているものもいました。しかしその能力すら乙坂は奪取します。

このまま彼女が能力を行使し続ければ救われる人はいるはず。

 

…ですが、いずれ彼女自身が周囲に利用されたり、成長して能力を喪失した時、世間からどんな謂われを投げかけられるか。
その人生を「幸せ」とは呼べないでしょう。

どんなに便利であろうと「能力は病気」であり、病気がもたらすものは不幸なのです。

 

そして乙坂は思いつきます。

「この能力で目を治せばタイムリープができる。そうしたら熊耳さんも助けられるかも…」

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しかし乙坂はそうはしませんでした。
ここに見えるふたつめの要素は「ループからの脱出」です。

もし目を治癒させタイムリープしたとして、結局それは能力に頼って取り戻した世界です。能力から逃れられない、不幸を基に作られた世界です。

よって乙坂は熊耳を救うのではなく、病気のない世界を作り上げることを選びました。

(「病気のない世界を作る」と書くと乙坂の行動原理が割とまっとうなことがわかる。ちょっとセカイ系っぽい。そう考えると熊耳はセカイ系ヒロインの要素がある)

 

また『AIR』しかり『智代アフター』しかり、既存の麻枝准作品でも「ループ」という要素に主人公/ヒロインたちは直面してきました。


そんな中で主人公が「ループから脱出」し、その先にあるまったく新しい道を模索しようする姿勢こそが、『シャーロット』の醍醐味でないかと思うのです。

 

また12話終盤でZHIENDの音源が入ったプレイヤーを友利に返しています。

これが既に乙坂は音楽プレイヤー(=ループ、つまりタイムリープ)に頼らないことを暗示していたといえます。(その代わりに単語帳という「約束」を得た)

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(↓このキャプションにもあるように、もともと荷物にプレイヤーは含まれていた)

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では何故、そこまでして『シャーロット』では「ループから脱出」するのか。

それは友利との「約束」があるからに他なりません。

 

・約束の形と、これから。


AIR』や『智代アフター』等で顕著ですが、麻枝准は多くの作品で主人公(男女問いません)とヒロインに「約束」を課します。
そしてその約束は凡そ果たされるのですが、代わりに死別、記憶喪失など大きな代償を与えます。そしてそれは『シャーロット』でも例外ではありません。

 

「帰ってくること、そして、恋人になること」という友利との「約束」を乙坂は果たしたものの、結果として友利や生徒会のメンバーと過ごしてきた思い出をすべて失ってしまいました。
しかしループを外れる=理を外れた乙坂を繋ぎ止めるたったひとつのものもまた「約束」でした。

もし乙坂がタイムリープでもしようものなら、友利との「約束」そのものを失くしてしまっていたのです。


輪廻の果てへ飛び降り、全くの化物になってしまっても、友利との「約束」だけが乙坂を乙坂たらしめたのです。

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(この単語帳めっちゃ丈夫だな)

 

全くこれまでの経験のない「未来へ向かう」のですから、「ループから脱出」するのは怖いことです。
しかし「未来へ向かう」意義とは、ラストで友利がすべて語ってくれます。

 

「これからは、楽しいことだらけの人生にしていきましょう!」

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友利奈緒が示す「これから」を、信じてみたいと思うわけです。


・友利奈緒という女

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牛タン弁当を普通電車でモクモクと蒸気を上げながら食べてみたり、初対面の人間を一方的に足蹴にしたりとギャルゲー的な電波性を抱えた友利ですが、乙坂と同様に「我 他人を思う」キャラクターでありました。

 

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「シシトウ~?」
「ZHIENDのPVを撮ることが夢なんすよ」
「人間やめたいんですか!?」
「(兄が快復したことの報せを受けて)…ありがとうございます」
「傷つくなあ…」

 

作中、友利が本音を表すシーンはすべて乙坂と共にありました。
乙坂の告白に対して「なして…?」と首を傾げていた友利ですが、あれは精一杯の照れ隠しだったのではと思います。

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(あー惚れてますわ、これ。ああーかわいい。)

 

しかし友利がいつ乙坂に惚れたのか…?

理由はそれこそ乙坂と同じです。

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「恋に理屈なんて必要あるかっ!!」

 

理屈なしで他人を信じられる。なんて素晴らしく、幸せなことでしょう。

そうです、『シャーロット』とは幸せの物語なのです。

 

…中の人のラジオでのイチャイチャぶりも思い出して書いててつらくなってきましたね!!!!!あーっいいなー!!みんな幸せだなー!!

※「友利奈緒の生徒会活動日誌」で検索

・おまけ

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乙坂が最後に奪取した能力は「勇気」
なるほど、OPタイトルの”Bravely you”がまさかここにかかってくるとは。
そして乙坂が「勇気」を奪ったことで、Bravely youとはまさに乙坂自身を指す言葉に。

よってOPの楽曲で語られる事象は乙坂へと完全に帰結しました。

少女への言葉が「生きろ」ではなく「死んでしまうところだったぞ」という言葉も、麻枝准らしいところです。

ひとりでもゆくよ 死にたくなっても

声が聞こえるよ 死んではいけないと

(『一番の宝物』作詞:麻枝准)

 

・「ループ」から抜け出せない友利の兄

ZHIENDを聴くことをやめた乙坂や友利は「これから」へ向かう。
ではZHIENDを聴き続ける友利の兄はどうなってしまうのでしょうか。

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ECHO

ECHO

 

 

最終話、ZHEINDの音源をサラのサイン入りCDを抱えながら横になる友利の兄。

とても穏やかな表情をしています。

自分の心地よい世界の輪廻の中、目覚めることがない…。

きっと友利の兄とは、広い意味で視聴者の風刺だったのではないでしょうか。


過去を自分好みにアーカイブし、完成した自己サイクルの中で永遠の消費に浸かったまま新しい世界に目が向かない、そういう人間の象徴です。

 

しかし麻枝准は友利の兄を、否定も肯定もしませんでした。
友利の兄を目覚めさせることも、狂気に苦しめることもさせなかった。
飽くまでも「ループの中も気持ちいいだろうが、そこから抜けだした先にある『これから』も、きっと楽しい」と、本作を通じて示してくれたのではないでしょうか。

 

すべては「これから」なんですから。

それを決めるのは自分自身です。

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(ゆさりん、えっちだ…) 

 

・終わりに

1クールのTV放送作品としてあともう少し、という部分が多い作品ではありました。

しかし本稿を通して『シャーロット』という作品がいかに清々しく前向きな作品であったか、少しでも感じていだたける一助になれば幸いです。

 

そして全話を通して個人的に友利のテーマソングになってしまった曲を貼り付けて自分の好きなバンドを推して終いといたします。


スピッツ / スターゲイザー - YouTube

ひとりぼっちがせつない夜 星を探してる

明日君がいなきゃ困る 困る

 

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幾度のせつない夜を越えていった人が向かえた「これから」が、幸せなものでありますように。