「ただの人」へと成るための物語 -『Free!』七瀬遙へ捧ぐ-
"すぐに飛べそうな気がした背中 夢から醒めない翼"(Ref.『遥か』スピッツ)
七瀬遙さん
生来、君は神だった。
泳ぎたいから泳いでいるだけなのに、周囲がもてはやしてきた。
君の意志はそれだけだったのに、皆がその能力を崇めた。
そんなのは、君にはどうでもよかったみたいだが。
今まではそれでよかったみたいだ。
天才であることを、君はまだ許される年齢だったから。
「10で神童、15で天才、20歳過ぎればただの人……。ただの人まであと3年ちょっと……」(Ref.『Free!』第一話)
でも、時間だけがそれを許さなかった。
次第に「人になれ」と、誰でもなく、しかし何もかもが、確実に君たちに「それ」を強要していく。
「それ」を許容できる者もいるが、君はうまくできなかったようだ。
君はもともと天才だ。
本来人はまず人になって、それから一部の人が天才になるってもんだ。
君は皆が羨む能力をあらかじめ持っていて、どうやったらその能力を手に入れられるのかなんて、悩む必要もなかった。
あまりにも泳ぎがうまくて、もがき方を知らなかったなんて!
なんという皮肉!
それを自覚した時、君はどれだけ自分が嫌になったことだろうか。
残念ながら我々は生来の天才にあらず、心中察するのは想像でしかできない。
だからこそ、松岡凛が君には必要だったんだろう。
彼だけが、本来多くの人が通るである過程を踏んできて、最も君に近い存在になりつつあったから。
ただの人であり続け、遠い地でもがき続けた彼は天才へと限りなく近づいていた。
そんな彼が辿ってきた過程をオーストラリアで追体験して、君は「人になるのも悪くないな」って、そう思ったんじゃないだろうか。
だから改めて皆に感謝して、謝って、これからの自分と皆を見つめなおせたんだろう。
その結果、どうだった?
やっと泣けたね。
やっと笑ったね。
ただの人になれて、迎える春はどんな色だったろう。
"人生はフリースタイル 孤独でも忍耐 笑いたがる人にはキスを
そしていつだって I say Yes,Yes,Yes
I'll be there"(Ref. 『I'll be』Mr.children)